循環器科 副担当部長 新井 清仁(心血管カテーテル治療学会認定専門医)
形成外科 非常勤医師 佐藤 智也 / 齋藤 順平
厚生労働省の調査によると、2014年糖尿病患者数は約317万人と過去最高となっており、成人の11人に1人が糖尿病患者であると推定されています。また日本透析医学会の調査による慢性透析患者数についても約32万人と、同じく過去最高の患者数となっております。特に糖尿病、慢性透析患者さんはそのほかの患者さんに比べて足の創傷への注意が必要です。始めは”小さな傷”でしかなかったものが、ひとたび重症化すると下肢切断に至り(症例1)、 その後の生命予後にも大きく関わるケースが珍しくないからです。たとえ小さなものでも足の傷は決して軽く見てはいけません。
足の傷が治らない主な原因は大きく3つに分類されます。
①虚血性潰瘍
②糖尿病性潰瘍
③静脈うっ滞性潰瘍
外見からは同じように見える傷でも治療法は全く異なります。それどころか判断を誤れば治らないどころか、かえって増悪することもあるので注意が必要です。
動脈硬化は全身の血管に起こりますが、おかされやすい動脈と、おかされにくい動脈が存在し、好発動脈として冠動脈、大動脈、頸動脈などが挙げられます。
下肢動脈もそのひとつであり、血管が狭くなったり詰まったりすることで血流不足(虚血)をきたし、足の冷感や痛み、引いては足の傷をおこす病気を 末梢動脈疾患(Peripheral Arterial Disease; PAD) と呼びます。
この場合は血行再建によって血流不足を改善することが最も重要であり、創傷治癒のためには必要不可欠な治療となっています。
当院ではPADに関するガイドライン(ESC, AHA, TASCⅡ)に基づき、創傷治癒を専門とした形成外科医と共に個々の患者さんに対して適切な治療方針を決定しています。
血行再建の方法としてはカテーテル治療(血管内治療:Endovascular Therapy; EVT)とバイパス術がありますが、当院では患者さんの負担が少ないカテーテルによる血行再建を行っています。
バイパス術が困難と判断された患者さんにも可能であることから、現在最も注目されている分野であり、当院でもカテーテル専門医によるEVTに積極的に取り組んでいます。
難治性の足の傷であっても、適切な診断と治療を行えば大切断を回避し(リム・サルベージ;救肢)、治癒する例があります(症例2)。
医療関係者をはじめ、一般の方々にもPADに興味を持っていただくことにより、病気の早期発見を促し、地域のPAD診療の質的向上につながればと考えております。
慢性的な足の傷でお困りの方、ぜひ私どもの”難治性下肢潰瘍外来”へお越しください。お待ちしております。
●当院の症例1:悪化してしまった症例
60歳代男性。左拇趾の痛み、傷が治らないとのことで来院されました。
前医ではカイロによる低温やけどと言われていたそうです。旅行中普段よりも多く歩いてしまった結果、傷の悪化を認めています。残念ながら下肢切断にいたってしまったケースです。
●当院の症例2:カテーテル治療にて治癒した症例
80歳代男性。左足の痛み、傷が治らないとのことで来院されました。
前脛骨動脈、後脛骨動脈の閉塞を認めたためカテーテル治療を行っております。いずれもバルーンにて拡張し指先まで良好な血流が得られています。